3メートル

9月10日(日) 晴

久しぶりに彼女と声をかわした

2年と少し前に
マンション近くの草むらで
4つの丸い乳房をさらして
泥のように眠っていた彼女

あのときの子猫たちの行方は
私には皆目わからないし
例の餌やりの女性のことも
このところ話題にもならないのだけれど
他の数匹の猫たちと
彼女はあいかわらず
このマンションの周辺で暮らしている

エレベーターの前で
黒茶のかたまりが「なー」と鳴いて
私も「なー」と合いの手を入れる
傷ついた人と話すときのように
彼女の「なー」を
なぞるように繰り返す

彼女との距離は
あいかわらず3メートルくらい
立ち上がって歩き始めた私のあとを
彼女はやはり
距離を保ちながらついてくる

昼間の暑さをほのかに残した
夜風が頬をなでて行く

おやすみ

明日は雨が降るらしい

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「不法投棄」

1月27日(木) 晴

幼い野良猫

野良猫が、1匹。

痒いから爪で引っ掻くのか、
少々毛のはげた傷だらけの顔。
まだ幼さが残るのに、たいそうきつい表情で、
人を怖がるでもなく、人に媚びるわけでもなく
ただ、そこに居るのだ。

回収時間に遅れたゴミのように。
少々所在なさげにぽつんと、けれど、
そこが、本来の居場所であるかのように。

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彼女の事情

9月18日(土) 曇

むかご

いつのまにか茶色くなったどんぐりに
後羽をかたっぽなくしたオナガアゲハ。そして、
調子の外れたツクツクホウシ。

久しぶりに「彼女」に出会った。

彼女は、私の目を見ながら「なー」と鳴く。
「なー?」と聞き返す私は、けれど、彼女の言葉を理解しない。
姿だけでも写したくて、カメラをとりに戻ろうとすると、
彼女は、私と意思の疎通をするのは無理だと思ったのだろう、
もう一度「なー」と言ってからマンションの裏手へ去った。

その後ろ姿に胸を突かれる。

やせっぽっちだった彼女の両の横腹の、
身の上に起きた事を確信させる不思議な丸み。
重たげに腹を左右に揺らしながら歩く。

彼女たちに餌を与えている人間は
本当に彼女たちのことを愛しているのだろうか。
その先のことに、真剣に思いをめぐらせているのだろうか。

彼女にふたたび宿った小さな命が
無惨に散っていくかもしれないと、
そして、自分がそのことに荷担しているかもしれないと、
はたして考えたことがあるのだろうか。
これは、愛の名を借りた虐待ではないのか。

笙野頼子が『愛別外猫雑記』で言うように、
病的な猫嫌いと無責任なだけの猫好きとは
結局、同じなのかもしれない。
たしかに、どちらも猫を種としてしか見ていない。
個としての先行きなど考えてもいないのだ。

振り返らない後ろ姿を見送りながら、
作家の言葉を反芻してみる。

「彼女」があのとき私に言いたかったことは、
私にはわからないけれど。

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